血友病未来会議を始めましょう。
- 監修
聖マリアンナ医科大学 小児科
長江 千愛 先生荻窪病院 血液凝固科
長尾 梓 先生
血友病の治療は大きく進歩しており、今では血友病でない人と同じように健康でアクティブな生活が送れるようになってきました1)。そうした生活をより長く維持していくために、これからは日々の出血を予防するだけではなく、将来のことも考えて治療に取り組む時代です。明るい未来に向けたはじめの一歩として、一緒に「血友病未来会議」を始めましょう。
自己注射デビュー
自己注射の導入時期は、お子さんの生活環境や活動量、重症度などを考慮しながら、宿泊をともなう学校行事などを目標として、10歳ごろを目処に検討していきます。
投与方法や投与間隔など、お子さんに合ったものを医師と相談しながら決めるとよいでしょう。
注射の打ち忘れ
注射の打ち忘れは、16歳以降の青年期2)に増えることがわかります。
中・高校生くらいから受験勉強や部活などで生活が忙しくなったり、定期補充療法のおかげで出血が減り、注射を忘れてしまうようです。出血や痛み・違和感がなくても、打ち忘れを防ぐための対策が必要です。ご自身の病態やライフスタイルなどについて、医師と相談し自分に合った治療薬を選ぶのもよいでしょう。
小児科から血液内科へ
年齢を重ねると生活習慣病などで内科を受診する機会が増えていきます。あらかじめ適切な時期に小児科から血液内科への移行を検討しましょう。
一般的に高校に入学する16歳から、年齢により対象となる医療費助成制度が変更となる20歳くらいまでが適切な時期とされています。保護者から自立し、自己管理を開始する重要な時期でもあります。
医師が変わることに不安を感じる方や、長年お世話になった小児科の医師との別れに寂しさを感じることもあるかもしれません。しかし、趣味や仕事を充実させながら生活していくために、まずは出血時や緊急時の対応を自分でできるようにしつつ、今後の健康管理のためにも内科への移行を準備していきましょう。ただし、タイミングには個人差があり、血友病に関しては内科へ移行しない場合もありますので、まずは医師と相談してみてください。
定期的な検査が大切
関節の出血を繰り返すと
血友病性関節症に
関節の痛みや違和感を放っておくと
関節内出血を繰り返す悪い循環がうまれ、
血友病性関節症に。
予防するためには、
定期的な検査が大切です。
違和感がなくても、
痛みや違和感などの自覚症状がなくても、関節内で小さな出血(微小出血)が発生していることがあります。
最近では、MRIなどと比べて
負担が少なく、
お子さんでも
検査を受けることができる
関節エコーが導入されてきています。
最新の研究でも、関節エコーを用いて
関節の健康状態を3年間にわたって
定期的に検査を続けた結果、
ひじ、ひざ、足関節などの改善がみられたと報告されています5)。
ぜひ定期的に検査を受けましょう。
エイジングと自己注射
平均寿命が長くなった結果、
加齢にともなうさまざまな病気にも注意が必要になってきました。
また、健康でアクティブな生活を維持していくために、治療を継続していくことが大切です。
自己注射についても、視力の低下や手先の震え、静脈への注射が難しくなるなどがある場合は、使いやすい自己注射方法を選ぶなど医師と相談してみましょう。
血友病性関節症により、関節の動きが悪くなったり、支える筋力が弱くなったりしていきます。また、加齢による筋力の衰えもあるかと思います。安静にするのも大事ですが、適度に運動をしましょう。
1)Srivastava, A. et al.:Haemophilia 26(Suppl. 6):1, 2020
2)国立研究開発法人日本医療研究開発機構 感染症実用化研究事業エイズ対策実用化研究事業「血友病とその治療に伴う種々の合併症克服に関する研究」分担研究:「血液凝固異常症のQOLに関する研究」平成29年度調査報告書
3)厚生労働省行政推進調査事業「非加熱血液凝固因子製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養体制の構築に関する患者参加型研究」分担研究:「血友病患者のQOLに関する研究」令和2年度調査報告書
4)竹谷英之:小児内科 54(増刊):671, 2022
5)A Nagao et al.:Res Pract Thromb Haemost. 2024;8:e102511