自己注射デビュー

監修
 聖マリアンナ医科大学 小児科 長江 千愛先生

自己注射デビューについて
未来会議をしましょう

治療が進歩し、血友病でない人と変わらない生活を送れることが当たり前の時代が来ているなか、お子さんの自立を支援していくことが、より大切になってきます。
現在、自己注射の一貫として皮下注製剤も使用することができるようになっており、需要も増えてきていますが、今回は凝固因子製剤の静注を中心にご紹介させていただきます。
デビューの時期は、お子さんの生活環境や活動量、重症度などを考慮する必要がありますが、宿泊をともなう学校行事などを目標として、10歳ごろから自己注射を開始する場合が多いです。血友病のお子さんにとって、自己注射を始めることは自立に向けての大きなステップです。ここで注意したいのは、保護者や周囲の大人の都合で自己注射指導を開始するのではなく、お子さんの動機づけや意思決定を尊重し、セルフマネジメントを身につけていけるようにお子さんを主体に関係者でよく話し合うことです。
可能であれば同じ施設で自己注射を行っている同年代の方に経験談を聴かせてもらい、練習しているところを見学させてもらえると大変参考になり、やる気を起こしてくれることも多いです1)。また、普段から、投与の準備や片づけ、投与記録など、本人ができることから挑戦をしていってもらい、最終的に自己注射ができるように、心の準備をしていくのもよいでしょう。

  • 1)吉川 喜美枝: Frontiers in Haemophilia 6(1):33, 2019

家で治療できるメリットと注意点について

改めて、自己注射により家で治療できるメリットと注意点について確認しておきましょう。
血友病の治療の基本となるのが、出血したときに止血できるように注射薬で補う「出血時補充療法」や非出血時に出血を予防したり関節症の発症を予防するために注射をする「定期補充療法」です。病院へ行かずにご家庭などで行う方法を「家庭療法」といいます。

家庭療法のメリット

  • 出血したときに早く治療することができる
  • 治療が行いやすくなり、 関節障害の予防・軽減が期待できる
  • 病院に通う身体的・時間的・経済的な負担が軽くなる
  • 学校生活や社会生活におけるQOLの低下が少なくなる
  • 行動範囲が広がることで、身体的・精神的な自立につながる
  • 「血友病家庭注射療法のガイドライン(2003年版)」 日本血栓止血学会 血友病標準化検討部会 編より作成

家庭療法で気をつけること

  • 定期的(最低3ヵ月ごと)に受診すること
  • 家庭療法に関して主治医の先生の評価と指導を受けること
  • 治療の経過や薬の在庫状況を記録し、病院に定期的に提出すること
  • 薬は規定の方法で管理し、主治医の先生から指示された量と方法で注射すること
  • 患者さん本人以外は薬を使用しないこと
  • 針や注射器などは医療機関から指示された方法で処理すること
  • 出血症状が強いときや判断に迷うときには主治医の先生に連絡すること
  • 「血友病家庭注射療法のガイドライン(2003年版)」 日本血栓止血学会 血友病標準化検討部会 編 より作成

自己注射デビューをするには

自己注射をいつ始めるかは、医師やお子さんとご家族で十分に話し合って決めることが重要です。自己注射を始めるにあたっては、下記を参考にしましょう。何度も練習ができますので、焦らずに、自信をもって自己注射ができるように準備しましょう。自己注射の練習のなかで、病気や治療などについて再確認することも大切です。
自己注射ができるようになっても、自己流になってしまったり、うまくできなくなってしまったりする場合もありますので、その時は病院で医師や看護師にチェックしてもらうとよいでしょう。

自己注射を始めるにあたって

①病院で医師や看護師から自己注射の仕方を習う

②サマーキャンプに参加する

病院や患者会(同じ病気や症状など、何らかの共通する経験を持つ人たちが集まり、自主的に運営する会のこと)が、夏休み期間に合わせて2泊3日などで開催する野外活動

③自己注射の仕方などが記載された冊子を入手する

自己注射の開始にあたって再確認しておきたいこと

  • 血友病とはどのような病気なのか
  • なぜ治療(注射)が必要なのか
  • 治療(注射)はどんな効果があるのか
  • 日常生活では何に気をつけなくてはいけないか
  • 宮川 義隆ほか編:はじめてでも安心血友病の診療マニュアル 医療ジャーナル社:238,2017A

ライフステージ別血友病とのつきあい方はこちら
学童・思春期(小学校/中学校/高校)

  • 自己注射に対する患者さん本人の意思を確認する
  • サマーキャンプへの参加したいか聞いてみる
  • 修学旅行など遠方での宿泊学習の予定を調べる
2024年11月作成 BNF46O004A