どんな治療薬や治療法があるの?
監修
荻窪病院 血液凝固科 長尾 梓 先生
荻窪病院 血液凝固科 臨床心理士 小島
賢一 先生
血液凝固因子製剤やノンファクター製剤が使われる
血友病の治療には、血液凝固因子製剤(血友病Aでは血液凝固第VIII因子製剤、血友病Bでは血液凝固第IX因子製剤)が使われますが、最近ではノンファクター製剤という新しいタイプの製剤も使われています。
どの治療薬を使用するかは、主治医の先生に自分の希望を伝え、よく話し合って決めましょう。
■血液凝固因子製剤を用いた治療法
血液凝固因子製剤は、低下・欠乏する血液凝固因子自体を直接注射で補うことができる製剤で、定期補充療法や予備的補充療法、出血時補充療法で使われます。
血液凝固因子製剤は効果が持続する時間の長さによって半減期標準型製剤(SHL)と半減期延長型製剤(EHL)に分けられ、EHLはSHLに比べて半減期※が長くて血液中に長く留まることができるため、一般的に投与回数が少なくてすみます。
- ※注射した製剤が体内で半分に減るまでの時間のこと
半減期標準型製剤(SHL) | 半減期延長型製剤(EHL) | |
---|---|---|
治療できる年齢 | 全ての年齢注) | |
治療の方法 | 静脈注射(指定された溶液で製剤を溶かしたものを注射) | |
治療できる場所 | 家庭または病院 | |
治療の頻度 | 製剤によって異なる |
- 注)一部の製剤には年齢制限があります。
血液凝固因子製剤を注射したときの血液凝固因子レベルの推移(イメージ)
■ノンファクター製剤を用いた治療法
ノンファクター製剤は最近使えるようになった比較的新しい薬で、血を固まりやすくするために働く成分が含まれています。
現在使えるノンファクター製剤には、血液凝固因子に代わってはたらく製剤(二重特異性抗体)と、血液凝固に関わる因子のバランスを整える製剤(止血リバランス製剤)の2種類があります。どちらも、注射後に血液凝固因子レベルが急激に上がるわけではありませんが、定期的に注射することで出血しにくくすることができます。
二重特異性抗体注1) | 止血リバランス製剤注2) | |
---|---|---|
治療できる年齢 | 全ての年齢 | 12歳以上 |
治療の方法 | 皮下注射 (注射器で容器から必要な製剤量を抜き取って注射) |
皮下注射 (あらかじめ針と製剤がセットされた注射器を用いてそのまま注射) |
治療できる場所 | 家庭または病院 | |
治療の頻度 | 月に1~4回 | 毎日 |
- 注1)現在日本国内では血友病Aに対する製剤のみが承認 されています。インヒビターの有無を問わず使用できます。
- 注2)血友病Aと血友病Bのいずれに対しても使用可能です。インヒビターの有無を問わず使用できます。
ノンファクター製剤を注射したときの血液凝固因子レベルの推移(イメージ)
- WFH共同意思決定ツール:凝固因子補充療法ファクトシート、二重特異性抗体療法ファクトシート、止血リバランス療法ファクトシート(https://sdm.wfh.org/ja/welcome-ja/ 2024/8/25参照)より作成
インヒビターができた場合、止血療法は3種類
インヒビターができた場合は、血液凝固因子製剤の効き目が悪くなるため、治療法の変更が必要になります。インヒビターができた血友病患者さんに対する止血のための治療法は、インヒビター中和療法、バイパス止血療法、ノンファクター製剤を用いた治療の3種類があります。
■インヒビター中和療法
インヒビターは血液凝固因子の抗体で、血液凝固因子のはたらきを阻害します。
インヒビター中和療法は、インヒビターではたらきが阻害される血液凝固因子を上回る量の血液凝固因子製剤を投与して、血液中に存在するインヒビターを中和する治療法です。
■バイパス止血療法
インヒビターではたらきが阻害されてしまう血液凝固因子を利用せずに、バイパス製剤を投与してほかのルートで血液を凝固させる治療法です。
■ノンファクター製剤を用いた治療法
インヒビターができた血友病患者さんに対して、現在はノンファクター製剤を用いた治療も行われています。インヒビターができた場合でも、二重特異性抗体注1)と、止血リバランス製剤注2)の2種類のノンファクター製剤が使用できます。
- 注1)現在日本国内では血友病Aに対する製剤のみが承認されています。インヒビターの有無を問わず使用できます。
- 注2)血友病Aと血友病Bのいずれに対しても使用可能です。インヒビターの有無を問わず使用できます。
- 嶋緑倫:“Ⅲ.治療 4.合併症の予防と治療 3)インヒビター保有患者の治療 (1)止血療法”
- みんなに役立つ血友病の基礎と臨床 白幡聡ほか編 改訂3版 医薬ジャーナル社:242, 2016
- 小倉妙美:血栓止血誌 35(1):52, 2024
- WFH共同意思決定ツール:二重特異性抗体療法ファクトシート、止血リバランス療法ファクトシート(https://sdm.wfh.org/ja/welcome-ja/ 2024/8/25参照)より作成