ライフステージ別 血友病とのつきあい方中年~初老・高齢期
監修
荻窪病院 血液凝固科 長尾 梓 先生
荻窪病院 血液凝固科 臨床心理士 小島 賢一 先生
中年期(45~64歳ごろ)になると高血圧症や心疾患などの生活習慣病を合併している患者さんが増えます。
徐々に身体機能が低下し、初老・高齢期になると体力的にも活動量は減りますが、極端な運動量の減少は筋肉維持のためにも避けましょう。
血管の老化や視力の低下などによって自己注射が難しくなってくる時期でもありますが、健康でアクティブな生活を続けるために、利用できる制度を活用して、治療を継続することが大切です。
検査や病気の治療で出血することも
中年期くらいまでにさまざまな部位での出血を経験し、血友病性関節症のある患者さんも少なくありません。また、病気発見のための内視鏡検査による生検※でも出血の可能性があることも知っておきましょう。
ほかにも、血友病性関節症や骨折時の整形外科的手術、脳・心血管疾患やがんなどでの大きな手術では出血を伴うことになります。
- ※ 病変の一部を採取して詳しく調べるための検査
■中年~初老・高齢期によくみられる出血
- 藤井輝久:“4 出血への対応” はじめてでも安心 血友病の診療マニュアル 宮川義隆ほか編 初版 医薬ジャーナル社:69, 2017
- 小倉妙美ほか:“Ⅱ.診断 1.臨床症状” みんなに役立つ血友病の基礎と臨床 白幡聡ほか編 改訂3版 医薬ジャーナル社:112-120, 2016
40歳以上になったら生活習慣病の予防を心がけて
40歳以上になると、糖尿病、高血圧症、高脂血症などの生活習慣病を合併している可能性が高くなります。これらは脳・心血管系疾患に進展するリスクが高いと言われていますので、生活習慣病の予防のため食習慣や運動習慣を正しましょう。
血液凝固能が低下している血友病患者さんは虚血性疾患の発生率が低いという報告がありますが、定期補充療法の定着と非凝固因子製剤の使用によって血液凝固能が保たれた結果、発生率が増えるのではないかと懸念されています。
■中年~初老・高齢期で増える可能性がある合併症
- ● 糖尿病
- ● 高血圧症
- ● 高脂血症
- ● 腎不全
- ● 脳梗塞
- ● 心筋梗塞
- ● その他の血栓症
- ● 骨粗しょう症
- など
- 厚生労働省委託事業:血液凝固異常症全国調査 令和5年度報告書
- 長尾梓, 血栓止血誌 32 (1) 26, 2021
いつまでも自分の歯でいるために大切な口腔ケア
高齢になると唾液の量が減ったり、酸を中和する力が落ちると言われています。適切な口腔ケアは、口腔内の病気の予防につながるだけでなく、高齢者に多い誤嚥性肺炎のリスクを下げることが報告されていますので、これまで以上に口腔ケアを心がけましょう。
■高齢期によくみられる口腔内の問題
- ● かみ合わせ
- 歯の表面のエナメル質がすり減る
- ● 炭酸飲料やお酢系の飲料、柑橘類のフルーツや調味料などの摂取
- エナメル質が溶ける
- ● 硬い歯ブラシや強い力でのブラッシング、研磨剤の入った歯磨き粉
- 歯肉(はぐき)がすり減り、歯根の表面が露出した状態になる
- 松本宏之:“13 抜歯の悩み” はじめてでも安心 血友病の診療マニュアル 宮川義隆ほか編 初版 医薬ジャーナル社:192, 2017
筋肉を維持するためには安静より運動を
年齢を重ね、身体機能が低下すると、必然的に運動量が減ります。出血をおそれて運動を避ける方もいるかもしれません。筋肉は使わないとどんどん衰えてしまいます。筋肉維持のためにも適度な運動を行いましょう。
筋肉を保つことで関節の負担が減り、出血も減少することが分かっています。運動が難しい場合は、理学療法(リハビリテーション)も有効です。
■比較的出血リスク
- ● 水泳
- ● ゴルフ
- ● ウォーキング
- ● ハイキング
- など
- 和田育子:Frontiers in Haemophilia 7(2) 86, 2020
- 竹谷英之:“12 関節症への対応” はじめてでも安心 血友病の診療マニュアル
- 宮川義隆ほか編 初版 医薬ジャーナル社:183, 2017